肝臓がん

5‐FU、分子標的治療薬、経皮的肝灌流化学療法など、肝臓がんの治療で使われる薬の副作用と働きを調べてまとめました。

肝臓がん病期別の治療方法

肝臓からがんが発生した原発性肝がんのうち、9割以上が肝細胞がんと言われています。肝臓がんの中でも患者数の多い肝細胞がんの治療方法を病期別に見ていきましょう。病期分類の基準は幾つかあります。ここでは日本肝癌研究会が定めた「臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約」をもとに解説します。

肝臓がんの病期は転移の有無と腫瘍の大きさや広がりによって判断されます。腫瘍の広がりはT1〜T4まで4つの分類があります。「腫瘍が1つ」「腫瘍の大きさが2cm以下」「脈菅への広がりがない」の3つの項目が全て当てはまる場合にはT1、2項目当てはまる場合にはT2、1項目当てはまる場合にはT3、全て当てはまらない場合にはT4に分類されます。

■I期(リンパ節や遠隔臓器に転移がなくT1)

肝臓がんでは、病気に加えて肝硬変など肝臓の障害が、どの程度あるかどうかも確認し、治療方法が決定されます

肝臓の機能がある程度保たれていて、病期Ⅰ程度の肝細胞がんの場合、外科手術(肝切除)やラジオ波焼灼療が選択されます。肝切除とは、肝臓の組織をがんとともに切除する外科手術です。ラジオ波焼灼療法とは、体の外からがんに特殊な針を刺して局所的にがんを焼く治療法です。

■Ⅱ期(リンパ節や遠隔臓器に転移がなくT2)

病期Ⅱの肝細胞がんの場合、治療法として「肝切除」「塞栓療法」「分子標的薬による治療」「肝動注化学療法」が選択されます。塞栓療法とは、冠動脈までカテーテルを入れて、塞栓物質を入れることで標的となるがん細胞を攻撃する治療方法です。また、肝動注化学療法とは、抗がん剤を肝動脈に投与して、がん細胞を攻撃する治療方法です。

■Ⅲ期(リンパ節や遠隔臓器に転移がなくT3)

基本的に病期Ⅲの治療の場合も、選択される治療方法は病期Ⅱのケースと同様の選択肢の中から検討されます。薬物療法としては分子標的薬を使った治療が標準治療となります。肝臓の機能が比較的良好な場合に選択されるケースが多く、ソラフェニブやレンバチニブなどの抗がん剤が用いられます。

■Ⅳ期(リンパ節や遠隔臓器に転移がなくT4、もしくはリンパ節転移や遠隔転移がある)

肝臓以外の臓器へがんが転移している病期Ⅳの肝臓がんに対する治療は分子標的薬による治療が一般的です。

肝細胞がんの場合、放射線治療は標準治療として確立するまでの研究の蓄積がまだありません。そのため、一般的にはあまり使われませんが、骨や脳、血管などへの転移が見られる場合や痛み緩和が必要と判断された場合には、放射線治療が選択されます。

出典: 国立がん研究センター がん情報サービス「肝臓がん|治療」

肝臓がんに使われる抗がん剤の副作用とは

肝臓がんの治療に使われる抗がん剤には「5‐FU(フルオロウラシル)」「分子標的治療薬」「経皮的肝灌流化学療法(PIHP)」があります。それぞれの抗がん剤に含まれる成分や副作用についてチェックしていきましょう。

抗がん剤「5‐FU(フルオロウラシル)」の動注化学療法&インターフェロン併用治療

肝臓がんの治療法には様々な種類がありますが、大阪大学付属病院で教授を務める門田守人氏らによって開発された抗がん剤「5‐FU(フルオロウラシル)」の動注化学療法&インターフェロン併用治療は新しい治療法の一つとしていくつかの施設で実践されています。

肝臓がんの治療では「動脈塞栓術」と呼ばれる方法が取られるケースもありますが、こちらはがんに栄養素を運ぶ血管をふさぐ治療法となっており、塞栓物質を注入する際に激しい痛みや不調を感じることがありました。

その痛みは広範囲にわたり、鎮痛剤を投与しなければ我慢できないほどの症状が出るケースもあります。しかし、動注化学療法の場合は血管を塞ぐ必要がありません。

血管を防ぐとどうしても肝臓自体にダメージを与えることになってしまうので、これを行わない治療法は大きな魅力だといえるでしょう。また、繰り返し抗癌剤を注入することも可能です。

この動注化学療法とインターフェロンを併用した治療は開発者の思いつきで生まれたものでした。

それまでの通常の治療法では十分な成果が発揮できないと思われる終末期の患者さんに対し、5-FUの経口剤と夢の抗がん剤とまで言われたことのあるインターフェロンを組み合わせて改善を試みたのがこの治療法となります。

一つ一つの治療効果はそれほど高くないとされていましたが、組み合わせて治療を行うことにより再発がんや転移がんにも効果を発揮する結果となりました。

フルオロウラシル

概要
商品名としては協和発酵工業の「5-FU」、東菱薬品工業の「カルゾナール」、旭化成ファーマの「ベントン」、沢井製薬の「ルナコール」・「ルナポン」などが挙げられます。特に効果を発揮するのは胃がんや大腸がん、乳がん、子宮がんです。注射剤としては肝臓がんのほか、膵臓がん、肺がん、卵巣がん、頭頚部がんなどに用いられることもあります。

主な副作用
剤型による差はあるが、強い下痢や出血性腸炎といった消化器症状と、それに伴う脱水症状などが報告されており、高度の骨髄抑制や間質性肺炎、肝機能障害や黄疸、急性腎不全、うっ血性心不全、白質脳症といったものが発症する可能性もある。
一般的な副作用として挙げられるのは、消化器障害をはじめ、しびれやめまい、倦怠感といった精神神経症状、また色素沈着や脱毛といった皮膚症状、さらに腎機能・肝機能低下、発疹など過敏症、発熱等がある。

分子標的治療薬

抗がん剤にはいくつかの種類があるものの、肝臓がんに対して大きな効果を発揮する抗がん剤はないと言われてきました。しかし、そういった中で注目が集まっているのが分子標的治療薬です。

これまで、肝臓がんに行える化学療法で主に取り入れられていた治療法はカテーテルを動脈から肝臓がんの細胞まで通して抗がん剤を注入する方法や点滴などによる全身化学療法でした。

しかし、直接抗がん剤を注入する動注化学療法は本当に効果があるのか実証されておらず、全身化学療法についても生存期間を延長することは難しいとまで言われていました。

そういった場面で登場したのが分子標的治療薬です。がん細胞の増殖を阻止するだけでなく、血管新生を抑える働きを持った経口剤がマルチキナーゼ阻害剤となっています。

ソラフェニブ

概要
キナーゼ阻害薬とも呼ばれる薬のことでがんに対抗する働きを持った薬となっています。がんが増殖や浸潤、転移を行うためにはそのための過程があるのですが、それを妨げる働きを持ったのがソラフェニブなどの分子標的薬です。

主な副作用
黄疸や、ALT(GPT)・AST(GOT)上昇を伴う肝機能障害が起こる場合があるため、定期の肝機能検査が必要。アミラーゼやリパーゼの上昇、下痢、脱毛が起こる場合もある。また、臨床試験では手足の腫れや手足症候群(皮膚が乾燥してはがれるなど)が約半数の人に確認されている。

経皮的肝灌流化学療法(PIHP)

従来の治療法では太もものつけ根からカテーテルを入れ、肝臓に抗がん剤を投与する治療法が行われていたのですが、副作用が大きいのが欠点でした。これにより濃度を抑えた薬剤しか投与できずにいたのですが、この治療の改良版として登場したのが経皮的肝灌流化学療法です。

バルーンで下大静脈の上下を遮断することにより通常の10倍もの今後の抗がん剤を投与することが可能となり、高い評価を得ています。

副作用を軽減できる方法としても選ばれており、現在、臨床試験なども行われている治療法です。副作用について確認する際には、必ず主治医の説明を受けましょう。インターネット上で収集した情報だけで個人的に治療の方針を決めてしまうのではなく、しっかり主治医の意見も聞いてみてくださいね。

抗がん剤のつらい副作用で悩むより、負担の少ない肝臓がん治療を

肝臓がん治療に用いられる分子標的治療薬の成分「ソラフェニブ」は、副作用の発症率の高さが特徴です。約半数の方が手足に痛みや水ぶくれを引き起こす「手足症候群」を発症してしまいます。他の抗がん剤を使った治療でも、下痢や腸炎といった消化器障害をはじめ、発熱やめまい、倦怠感などの副作用は避けられません。副作用は個人差があるとはいえ、重くつらいもの。できる限り、負担の少ない治療を受けたいと考えている方は多くいらっしゃるはずです。

以下のページでは、副作用の少ない3つの治療法を紹介しています。癌と上手に向き合うためには、副作用の負担を軽減した新しい治療法がおすすめ。なかには、癌を未然に防ぐ効果や検査で見つけにくい初期の癌を早期発見・治療できる方法もあります。負担の大きい副作用で悩んでいる方は、ぜひ参考にしてみてください。

5‐FU(フルオロウラシル)・分子標的治療薬・経皮的肝灌流化学療法(PIHP)の違い

肝臓がんで用いられる治療法の違いをみていきましょう。

薬剤投与の仕方の違い

肝臓がん治療のうち、抗がん剤5‐FU(フルオロウラシル)による動注化学療法、分子標的治療薬・経皮的肝灌流化学療法(PIHP)の大きな違いは、使う薬剤と薬剤を投与する方法です。

まず、抗がん剤「5‐FU(フルオロウラシル)」の動注化学療法&インターフェロン併用治療は、抗がん剤を肝動脈に直接注入する局所的な化学療法です。カテーテルとリザーバーと呼ばれる器具を皮膚の下に埋め込み、薬剤を注入します。

カテーテルから冠動脈に薬剤が直接流れるため、全身化学療法と比べて他の臓器への影響が少ないのが特長です。抗がん薬を携帯用のポンプで持ち歩くことができるため、初回治療以降は入院しなくても治療が受けられます。

カテーテルとリザーバーの埋め込み手術も60分程度と短時間ですみ、傷口が小さいことから治療による体への負担が少ないのも特徴と言えるでしょう。[1]

次に、分子標的治療薬による治療は、服薬治療である点が大きな特長です。副作用は、抗がん剤による副作用とは異なり、皮膚症状や高血圧、疲労感、頭痛などが起こりやすいとされています。肝臓がんに対する分離標的治療薬の治療は、2009年に「ソラフェニブ」が保険適用されました。ただし、ソラフェニブによる治療は薬代が高い点が難点です。高額医療費控除などを活用しましょう。[2]

最後の経皮的肝灌流化学療法(PIHP)は、腿の付け根にカテーテルを設置し、肝臓に直接抗がん剤を届ける治療法です。肝臓に直接薬が届けられるため、従来の抗がん剤治療と比べて濃度の高い抗がん剤を使える点が特長です。[3][4]

作用・副作用の違い

次に、それぞれの治療法・薬がもたらす肝臓がんへの作用の違いを見てみましょう。

インターフェロン治療と併用される抗がん剤「5‐FU(フルオロウラシル)」は、全身化学療法でも使われる抗がん剤です。インターフェロンは肝炎に対して使われる薬で、肝臓がんの治療では、免疫力を高める作用なども期待できます。

5‐FU(フルオロウラシル)による動注化学療法は、冠動脈化学塞栓療法が難しい方や、菅切除をした患者さんに対して用いられます。インターフェロン併用がされるケースでは、「がんが門脈に浸潤しているが遠隔転移にない」「腹水がない、もしくはコントロール可能」「肝機能が良好」などの適応条件があります。

抗がん剤「5‐FU(フルオロウラシル)」による副作用は、抗がん剤と併用されるインターフェロンによるもの、2つの副作用が考えられます。抗がん剤「5‐FU(フルオロウラシル)」による副作用としては味覚異常や食欲不振、下痢、白血球減少などが。インターフェロンの副作用としては白血球異常の他に、発熱、倦怠感などがあります。[1]

分子標的治療薬は、肝臓がんで唯一服薬により全生存期間が延長されると実証されている薬です。抗がん剤は、細胞が分裂・増殖する過程に作用するため、がん細胞だけでなく正常な細胞にも作用してしまうという難点がありました。一方、分子標的薬はがん細胞に特有のたんぱく質や遺伝子のみを狙い撃ちできる点が大きな特徴です。抗がん剤の毒性が副作用として出ない点がメリットです。長期投与が可能で、効果も期待できる薬と言えるでしょう。分子標的治療薬「ソラフェミブ」の副作用は、抗がん剤とは異なります。[5][6]

このように、肝臓がんに対する治療方法は、用いる薬や投与の仕方により異なります。各治療が受けられる条件などもあります。主治医やセカンドオピニオンなどをもとに治療方法を選択肢として考える上で、知っておきたい基本的な知識を頭に入れておきましょう。

【参考URL】

参考[1]:国立がん研究センター がん情報サービスHP「肝細胞がん 治療」(2018年1月22日確認)
https://ganjoho.jp/public/cancer/liver/treatment.html

参考[2]:国立がんセンター中央病院 肝胆膵内科・薬剤部・看護部「ソラフェニブの治療を受けられる患者さんへ」2009
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/division/pharmacy/pamph/sorafenib.pdf

参考[3]:神戸大学医学部付属病院肝胆膵外科 HP「診療内容 PIHP」(2018年1月22日確認)
http://www.med.kobe-u.ac.jp/hbps/shinryou/pihp.html

参考[4]:『StageⅣ肝細胞癌に対する経皮的肝灌流化学療法(PIHP)のQOLと遠隔成績』具ら,1999
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjgs1969/32/4/32_4_1075/_pdf

参考[5]:『肝がんに対する新規抗がん剤使用に関する指針 2010年度版』肝臓,52(8),2011
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kanzo/52/8/52_8_532/_pdf

参考[6]:『分子標的薬によるがん治療〜最新の動向〜』矢野,2016
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjshns/25/3/25_259/_pdf

トランスレーショナルリサーチについて

癌治療の分野でも、世界各国の研究者が研究に取り組んでいるトランスレーショナルリサーチという言葉をご存知でしょうか?トランスレーショナルリサーチとは、生物学や分子生物学などの基礎研究を応用(トランスレート)して、癌の予防や新薬発見、治療などに活かしていくための研究です。

トランスレーショナルリサーチとは,生物学, 分子生物学の基礎研究成果を治療に応用(translate) するための研究である. 研究ステージの視点からは,純粋な基礎研究は含まれず,ヒトへの応用を意図した段階からの研究と考えられる.したがって,非臨床研究(規格,毒性,基礎薬効薬理)と臨床研究が含まれる

出典:(PDF)「分子標的抗癌剤開発のための トランスレーショナルリサーチ」化学と生物,41(12),2003 [PDF]

癌治療の分野でも、トランスレーショナルリサーチは、分子標的薬剤開発の分野で製薬会社や臨床現場のドクター、大学などの研究機関の連携のもと、活発に研究が進んでいます。

肝臓癌に限らず、トランスレーショナルリサーチによって開発された分子標的薬剤の活用は、効くかどうかわからないけれど試してみるという治療ではなく、論理的な治療につなげられる可能性を大いに占めています。

分子標的薬とは、癌遺伝子と癌を抑制する遺伝子などをターゲットに、効率よく攻撃するための薬です。抗癌剤との違いは、抗癌剤が攻撃する細胞は、癌細胞だけでなく、健康な細胞も攻撃してしまうことがあるのに対し、分子標的薬は癌細胞を増殖・転移させる遺伝子のみに働きかけることができる点です。

日本で肝臓癌に対して認可されている分子標的薬としては、進行性肝癌に適応する「ネクサバール」、肝癌に認可された「ソラフェニブ」などがあります。

近年の目覚しい学問の進展と技術の進歩により,癌に関わる分子が次々と明らかにされ,標的分子に作用する新規癌分子標的治療薬が承認されてきた.これらの新薬は,①標的探索プロセス(標的分子の発見~機能解析),②創薬研究プロセス(化合物のスクリーニング~最適化研究),③臨床開発プロセス(治験申請・臨床試験~承認申請)を経て,臨床での有用性が確認されて上市に至っている(図 2).一般的に臨床試験入りした新薬の成功確率は 10%以下と言われている.今後,この成功確率を高めるため特に「癌分子標的治療薬」の研究開発におけるトランスレーショナルリサーチの重要性が高まっている.

出典:(PDF)「新規抗癌薬の創製プロセスとトランスレーショナルリサーチ」塩津行正 著 - ‎2011 [PDF]

抗癌剤の副作用に関する研究も進むトランスレーショナルリサーチ

また、抗癌剤治療における副作用も、トランスレーショナルリサーチによって副作用が起こる際に関係している分子はなんなのかを追究する研究も進んでいます。

肝臓癌の化学療法にも使われる抗癌剤「5‐FU(フルオロウラシル)」の副作用についての研究も、トランスレーショナルリサーチの一例です。

抗癌剤「5‐FU(フルオロウラシル)」は副作用として、粘膜炎症や血小板減少などの血液毒性、中枢神経毒性などが見られることがあります。この副作用をいかに減らしていくかを解明するために、副作用にどんな分子が関わっているのかを研究するのがトランスレーショナルリサーチです。

「5‐FU(フルオロウラシル)」は投与されたうちの8割以上が非活性代謝物に分解されます。この分解に深く関わっているのがDPD酵素なのですが、DPD酵素が何らかの原因で欠損している場合には、血中の「5‐FU(フルオロウラシル)」濃度が高くなり、副作用を引き起こしていると考えられています[1]。

[1]出典:(PDF) 「抗癌剤の副作用とトランスレーショナル・ リサーチのニーズ」日薬理誌,146,2015[PDF]